東京 賃貸の楽しみ方
建築家のTさんはけつこう生活感覚のある人で、☆の位置に冷蔵庫を置いてダイニングにいる客側に向かってドアを開くのは、中味まで見えちゃうからどうか、と最後まで強く抵抗した。
それに、前の家でもご多分にもれず、冷蔵庫の前面ドアには、マグネットで所狭しと子どもの学校の案内やら電話のメモやらが貼られていた。
最終的には、PSラジエータの格子を隙間のある目隠しがわりに使って、台所からダイニングに向かって左側に立て、壁を作らないでセミ・オープンとする案に落ち着いた。
なお、我が家で導入したキッチン設備のうち、シンクからそのまま食器を入れられる縦型のビルトイン食洗器は、いまのところ調子がいい。
発売されてまだ十分な期間がたっていないのでトラブルが心配だったのだが、とくに問題もなく、使い勝手がよい。
手前に引き出すタイプの通常の食洗器と比べて容量がやや小さいのだが、私たちのパリでの経験では、サッとしょっちゅう洗えるくらいの容量のほうが使える。
大きいと、かえって洗う食器がたまるまで使わなかったりするからだ。
いまも冷蔵庫の前面には、やっぱりいろいろ貼られはじめたが、PSの、見えるようで見えない実に微妙な遮蔽を置くことによって、ダイニング側からはまったく気にならない。
冷蔵庫の上には壁掛け型の丸い時計を置いているのだが、これもPSの格子のおかげで、時間を気にして見ようと思えば時計の針が見えるが、ふだんはどこにあるのかわからないという、ジャパネスクな効果を出してくれている。
キッチンパネルの色は、メーカー規格から選んだ深いグリーンなのだが、ショールームで見たときのほうが美しく、妻は、実際現場に入ったとき、ちょっとショックだったようだ。
ショールームはスポットライトがビンビンだから、なんでも明るく見えるのだが、ライトを浴びないと青みが強くて、くすんだブルーグレーに見える。
しかし、ダイニング側から見るかぎり、ナラ材の床に淡い肌色の珪藻土という明るい壁が前面に立つから、キッチンストッカーのパネルは、くすんで深い色のほうがかえって似合う。
しかも、これはあとから気付いたのだが、人がシンクの前に立って仕事をする風景が額の中の絵のようになるから、背景が暗く沈んでいるほうが、人間の肌がきれいに見える。
ひとりでキッチンに立って明るい気分で仕事をしたいというなら、キッチンの前面パネルに赤やダイダイのような明るい色を選択するのが正解だろう。
ただ、ダイニングにいる家族やお客様からキッチンにいる人間を美しく見せたいなら、背後はくすんでいる色のほうが人間が映える・第銘話でもふれるが、日本の伝統的な屋根の瓦が、なぜイタリアや南仏のように鮮やかな赤やダイダイではなく、くすんだ燥銀なのかという謎も、このへんに隠れているように思う。
これには、大きくいって二つの理由がある。
信頼に足るメーカーの中級規格品は、圧倒的に多くのユーザーを得て現場で使われるから、当然無数のクレームを受ける。
壊れたりもするし、新しい目玉として発表した機能が、実はそれほど実用性がなかったなどということもあるだろう。
それにまつこうから応えて改良に改良を加えるうちに、信頼性は高まるから、最も使いやすいはずだと考えた。
これがひとつめの理由。
オリジナルで作った末に続々と不都合が出たとしても、他の場所ならいくらでも許す。
しかし、キッチンや風呂など日常家族が使いまくる水まわりで、頻繁にトラブルが起こってはたまらない。
我が家では、基本的に水まわりの設備にはメーカーの規格品を採用した。
玄関ドアをオリジナルで作ったり、トイレの洗面ボールを陶器で焼いてもらったり、あるいはダイニングの北側の壁に掛ける絵を若手の作家にオーダーしたり……。
そんなこだわりの家づくりをしているわりには、キッチン、バス、トイレ、洗面については、やけにあっけないな、と思われるかもしれない。
たとえが極端かもしれないが、Tに対抗してクルマを手作りしようとする人はもはや少ないだろう。
だから私たちは風呂もユニットバスにしてしまった。
実際、風呂場でのタイルの床は建て売りのときに経験しており、真冬には爪先立つほど冷たいから、結局マットを敷いて使っていた。
もうひとつは、やはりコストのことだ。
すべてをオリジナルで設計し大工さんに頼もうとすれば、コストはうなぎのぼりになる。
もちろん床や壁材、ダイニングで使っている木材にバシッと質感をそろえてキッチンを製作すれば、カッコよく仕上がることはいうまでもない。
風呂でも、四角い古代桧の浴槽に、壁、天井を節のある桧か杉で作った本格日本風なら、外人が訪ねてきたときには、「ひと風呂、どうぞ!」とやれば感動してくれる。
でも、ちょっとした棚やカウンターでも5万〜3万円はするから、オリジナルのキッチンやバスの製作は上を見ればきりがない。
だから、日常的に子どもたちもさんざん汚すであろう水まわりは、いちいち文句をいわなくてもいいように、中級の規格品でコストを抑え、そのぶん、玄関や和室のような接客的な意味のある場所の空間演出に投資しようと考えた。
ここでは、実際に住んでからの「経済性」という大事なポイントを振り返っておきたい。
電気代、ガス代、水道代が、より大きい家に移ることでどれくらい高くなるかである。
まず電気代だが、空調の電気代があまり影響しない前の家の春(4〜6月)といまの家の秋(9〜12月)の平均では、前に住んでいた建て売りの家(以下、前の家)が約7800円/月、新築したいまの家(以下、いまの家)が約1万6000円/月。
倍になってはいるが、延べ床面積で1対3と、いまのほうが断然大きいので、坪当たりの電気代単価は357円から242円に下がっている。
ダウンライト等の照明の数が約8倍に増えているし、設備的にも、食器洗い器、トースター、洗面所のヒーターなどが増えていることを考え合わせれば納得がいく料金だ。
コンピュータも2台に増えてはいるが、つけっぱなしにはしないこと、テレビもリビングにはないからつけっぱなしで見ないこと、ライト類もけつこうこまめに必要でないところを消していることなども、効いているかもしれない。
一方、冷暖房機を入れたことで、真夏と真冬にどれくらい電気代がかかるのかが一番気がかりだったのだが、2000年の暑かった8月で1万1200円、9600円だった。
前の家の月の電気代は、電気カーペットやオイルヒーターをしょっちゅう使っていたこともあり、1万9200円。
それに比べていまの家での12月の電気代は、通常の電灯電気代と空調電気代を合わせて2万5200円になった。
10%アップに見えるが、暖房をほぼつけっぱなしにしているn月でこの程度なら、十分納得できる。
ちなみに、皿月の坪当たり電気代単価は前の家で871円、いまの家で382円だ。
ところでPSの設備費は、一般的には、床暖房とエアコンの組み合わせに比べて割高になる。
水道代については、前の家が月4000円強だったのが、6000円弱になった。
うちは子どもが小さいから、シャワーだけでなく、よく風呂に入るということもある。
庭の水まきが増えたことや、クルマを自分の家の駐車場で洗うようになったことも影響している。
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